本文へジャンプします。


RSSを表示する



Vol.28 柴田邦臣さん(前編) できないと思っていたことができるようになると、世界が劇的に変わる

障がいのある方が、「自分にはできない」と思っていたパソコンを使えるようになり、劇的に変化していく姿を通して、『福祉と情報』というテーマで研究をされるようになったという日本社会情報学会理事で、大妻女子大学では社会学を教えておられる柴田邦臣さん。自ら体験されたボランティア経験や、介護保険とライフログの可能性など、幅広くお話を伺いました。

――『福祉と情報』という研究テーマに興味を持たれたきっかけは何だったのですか?

【パソコンを使えなかった人が使えるようになったとき、劇的な変化が起こる】
【パソコンを使えなかった人が使える
ようになったとき、劇的な変化が起こる】

今から10年ほど前、それまで縁もゆかりもなかった仙台で大学院生活を送ることになりました。友達がいなくて寂しかったし、学校も行かなくて暇だったので、何かしたいな、と探しているうちに、ある施設で障がいのある方がパソコンを使うのをお手伝いする機会に恵まれました。そこでの6年間のボランティア活動が、自分の原点といえると思います。当時、例えば平成13年の調査では、身体障がいのある方でパソコンを使っている方は1割もいませんでした。使ってみたいと思っている人はたくさんいたのですが、本人たちが積極的に使おうとはしなかった、というより、自分が使えるわけがない、と思っていた人が多かったように思います。それが、今まで使えると思っていなかったパソコンを使えるようになったとき、皆さんの世界が劇的に変わるということがわかったんです。その瞬間に立ち会えることがすごくうれしくて、福祉と情報というテーマを選んできました。

――ボランティア活動がきっかけだったのですね。

福祉の研究といっても、支援テクニックを外から観察するような研究ではなく、自分自身がボランティアの中にガンガン入っていって、それをフィードバックしていく『アクション・リサーチ』っぽいフィールドワークをしたかったんです。そして、そこにITを絡めていきたいと考えていました。通常の調査は聞き取って分析して、それを報告書にする。内容は難しくて現場では読んでもよくわかりません。でもITが絡めば、少なくとも「ITができるようになった」、っていうのが現場に残る。それが好きでした。

――ボランティア活動の中でITを絡めたアプローチをしていくにあたり、苦労されたことはありますか?

はじめの段階では、障がいのある人がパソコンを使えるの?といった偏見みたいなものがあった気がします。福祉というのは、ヒューマン・サービスなので、人間と人間のつきあいなんですよね。だから、そこに、ITという機械が介在するというのは“変”だという発想がありました。パソコンやネットで“福祉”というと、ちょっと非人間的のような気がしますよね。ですから最初の頃は、特に年配の福祉職員の方の協力が得にくかった印象があります。もちろん中には積極的にかかわってくださる方、逆に教えてくださる方もいて、その出会いもまた楽しかったです。

――障がいのある方のところにITを持っていくことで、どんな変化があったのでしょうか?

【日本学術振興会の特別研究員時代
ボランティア活動をする柴田さん】
【日本学術振興会の特別研究員時代
ボランティア活動をする柴田さん】

最初は「自分にはできない」って思っていた方が多かったと思います。実際にマウスやキーボードが使えないということも多々ありました。でも、それは解決可能です。マウスを二つ使ってみるとか、キーボードに角度をつけてみるとか、ちょっとした工夫で使えるようになる方もいたし、さらには「支援技術」という研究の知見を活かしたいろいろな入出力補助装置があります。それらを試しながらやっていくうちに、だんだん使える人が多くなります。一つ、決定的に変わったことがあったんですよ。それは、車椅子の方がパソコンをどんどん覚えて、施設の職員の方よりも詳しくなって、使い方を教えてあげたり、名刺の作成や家族写真の印刷の役割を担ったりするようになるんです。ITを通してご自身の「力」とか「役割」を回復・獲得なさるんですね。福祉の支援って、「本人が何かをできるようになる」ことが、あまりないんですね。食事の介助をしても自分で食事を食べられるようにはなりませんよね。体位交換も移乗も、ご本人ができるようになるわけじゃない。もちろんこれらは生活上絶対に必要なことです。でも、パソコン支援は違う。その成果がご自分の手元に残って、できるようになるんです。ここが決定的に大好きなんです。

――『介護保険と情報』についても考えておられるそうですね?

高齢者と障がい者は違うと思われるかもしれませんが、自分の中では繋がっています。意外に思われるかもしれませんが、対人支援の代表的制度である介護保険は、実はものすごく高度に情報化が進んでいるんです。例えば、介護保険を利用するためには、「要介護認定」を受けなければならない。この一次判定はすべて、コンピュータによってなされています。認定調査員の調査結果を入力したコンピュータが、「あなたの要介護度はこれくらいですよ」と判定して、おおよそ7割の人は二次判定で修正されずに決まります。私たちがお年寄りになって介護を受けたくなったら、必ず自らの身体・生活に関して、コンピュータ判定されることになるんです。一昔前のSFのような現実は、とっくに到来しています。それ以外でも、給付管理、適正化など、介護保険の周りは情報技術で満載です。私はこのテーマに、とても興味を持っています。

――高齢者介護が情報化されているなんて、情報社会の典型ですね?

【資源やお金が制約されていく社会でITがどう使われるのか問いたい】
【資源やお金が制約されていく社会で
ITがどう使われるのか問いたい】

「ライフログ」という言葉が流行しています。利用者の行動情報・生活情報を自動的に収集・分析してサービスにフィードバックしていく技術ですが、これがどんどん導入されているのが介護や保健の分野です。「Health2.0」という言葉をご存知ですか?これは、「Web2.0」を模した造語で、自分の一日の移動距離、食事の内容などをライフログの技術を生かし、すべてデータ化して記録して、より健康な生活をめざすという技術です。自分たちの身体や生活情報をデジタル化して健康管理に利用するんです。アメリカでは保険会社が中心になって推進しています。“健康な生活”をしている人が増えると健康保険や介護保険を減らせると期待できます。ライフログをどんどん進めることで、“健康・健全に生きる”、そして医療費や介護費用が少なくて済むライフスタイルを“算出”しようとしているんですね。

――医療費や介護保険費が少なくて済むライフスタイルはいいですね。

一概にそうとは言えません。例えば、障害がある人にとっては、医療費や介護費用が少なく済むような“健康・健全”なライフスタイルそのものが無理です。電力不足でビルのエレベーターや駅のエスカレーターが止まって、車椅子の人や移動困難な人が出かけられなくなって、今も困っていますよね。生きることに費用やサービスが余計に必要な人は、必ず存在していて、その費用は余計に社会で負担されなければならないのです。ライフログによる健全な生活は、医療や介護の予算を減らす決定打になるかもしれません。でも、ライフログによって「ここが無駄です」「ここを減らしましょう」という規準を当てはめられることそのものが、人として多様に生きる権利を侵害しかねない状況だってありえる。障がいのある人に「できる」をもたらすはずだったITが、逆に生きづらくしてしまう未来も、あり得るかなと心配しているのです。資源やお金がどんどん制約されていく社会の中で、そこでITが使われることで、何が起こり得るのか。その中で自分には何ができるのか、常に考えていたいと思っています。

(後編につづく)

柴田 邦臣さんプロフィール
大妻女子大学社会情報学部准教授、日本社会情報学会(JSIS)理事。専門は、福祉情報論、ICTメディア研究、社会情報学。東北大学大学院文学研究科人間科学専攻にて博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員を経て、現職。東日本大震災後、日本社会情報学会(JSIS-BJK)災害情報支援チームを結成し、山元町を中心に『情報』の面から被災地支援を実施。

東日本大震災後、被災地である宮城県山元町と東京を忙しく行き来されている合間を縫ってのインタビューでしたが、終始、情熱的に話をされるお姿がとても印象的でした。後編では、津波で泥水にさらされた写真を洗浄・複写して持ち主のところに届ける『思い出サルベージアルバム・オンライン』プロジェクトについて、詳しくお話を伺います。

by ニフティ「想い伝え隊」大空、田代、高沢

「柴田 邦臣」さんからのお知らせ

関連サイトの紹介

● 日本社会情報学会(JSIS-BJK)災害情報支援チーム
  http://jsis-bjk.cocolog-nifty.com/

● 災害臨時FM 「りんごラジオ」 ブログ
  http://ringo-radio.cocolog-nifty.com//

● 柴田さん ツイッター
  http://twitter.com//#!/shiba_zemitter

● 大妻女子大学 社会情報学部 社会生活情報学専攻
  http://www.sis.otsuma.ac.jp/liv-c/teacher_shibata.html


関連書籍の紹介

柴田さんの関連書籍をご紹介します。

『現代思想2011年1月号 特集=Googleの思想』152-170
『現代思想2011年1月号 特集=Googleの思想』152-170

柴田邦臣
「装置としての〈Google〉・〈保健〉・〈福祉〉―〈規準〉で適正化する私たちと社会のために―」
出版社:青土社
発行年月:2010年12月


みらいに架ける社会学―情報・メディアを学ぶ人のために みらいに架ける社会学―情報・メディアを学ぶ人のために

柴田邦臣2006b,
「メディア・リテラシー―社会に参加する知の積層―」
ISBN:978-4623045419
早坂裕子・広井良典編著
出版社:ミネルヴァ書房


社会学のつばさ―医療・看護・福祉を学ぶ人のために 社会学のつばさ―医療・看護・福祉を学ぶ人のために

柴田邦臣
「情報・メディア・プライバシー―『生活の情報化』をどう生きるか」
ISBN:978-4623056309
早坂裕子・天田城介・広井良典編著
出版社:ミネルヴァ書房

コメント (0) | トラックバック (0)

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/508788/51888510

※インタビュー記事に対して、リンクおよび言及のされていないトラックバックは削除することがありますので、ご了承ください。


コメント

コメントを書く




コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。