橋本さんは水ジャーナリストとして日本や世界の水問題を取材し、水をテーマに執筆活動を行っておられます。同時に「水の授業」を開催して子どもたちだけではなく親の世代にも水の大切さや世界各地の水事情を伝える活動をされています。公正で持続的な水利用を願って活動される橋本さんの原点は?そして今後の計画は? 夏休み中に開催された大地を守る会主催の「みずのじゅぎょう」を終えた橋本さんにお話を伺いました。
――「水の授業」大変お疲れ様でした。水の循環という概念と課題が理解しやすくて大人でも納得させられることばかりでした。

日本では「水」というと、多くの人は身近に見える水のことを意識します。例えばおいしい水が飲みたいとか、体に悪いものが入っていないか、といった風に。ところが、自分たちが流す水については意外と意識していない。日本人は、水の循環の中で自分がどういう循環に関わり、影響を与えているのかということはあまり考えていないんですね。
――日々の生活で常に水の循環を意識しているかというと確かに自分も含めそうではないような・・。
水は循環しているので、流す水を意識しないでいると必ず自分に戻ってくるってことになります。自分たちがどういう水の循環の中で生活しているのかということをまず考えてもらう、これは子どもたちだけではなく大人向けの授業でも同じなんです。
――日本で生活しているとつい水との関わりの認識が甘くなってしまうようです。
日本は世界的にも珍しい特殊な水事情を持つ国です。そのひとつが、日本には国際河川がないということです。私たち日本人は、河川の上流にある他国の水の汲みすぎや汚染物質のたれ流しで国としてストレスを受けた経験がありません。中国、ベトナムを中心としたアジアの水の少ない地域ではこういうことが現実に起きていて国際紛争の火種になっています。このような地域では流域の中で水をどういう風に使っていくかということを真剣に考えざるを得ないんですね。
――さて、授業のワークショップでは、子どもたちはすっかり水の循環の世界に入り込んで真剣に考え、話し合っていましたね。

水の授業では、まず、水の姿を目の前の液体だけと考えるのではなくて固体や気体の水もあることを認識してもらいます。そして森、地下水、川といろんなところで水はつながっているという大きな流れに気づき、自分がどういう風に水と関わっているのかを知ってもらう。いろいろな関わりがわかってくると子どもたちも面白いようです。とにかく自分で考えてもらう。本当は僕から伝えたいことがもっとたくさんあるんですけれども、それよりも何が問題なのかというのを子どもに出してもらうのです。
――学校の授業も同じパターンで実施されているのですか。
小学校の授業では12時間のカリキュラムを組んでいるところもあります。まず、世界の水道事情や水の循環の中で自分たちがどういう水を利用しているのかというようなことを僕が話す。次に先生が授業をやる。その後で、僕と一緒にダムや浄水場などの水道施設の見学に行く。そして最後に研究発表をしてもらう、というスタイルです。発表のテーマ設定は自由で、とにかくこの授業の中で一番印象に残ったことを誰かに伝えて欲しい、これは伝えるための研究発表だよ、と子どもたちに言っています。
――小学生にとっては少し難しい作業なのではないでしょうか?

子どもたちの発表方法は実にさまざまで創意工夫に満ちています。水の大切さを歌にして表現する子もいれば、演劇的なものを作る子もいる。水の循環のすごろくや、プラスチックのケースで装置みたいなのを作った子もいます。知識だけあっても水の問題は解決できない。やはり自分で考えることが今後のアクションを起こすためのトリガーになると思うんです。僕は、そういう見方や考え方を提案している感じです。
――さて、話は変わりますが橋本さんの活動の原点といいますか、水に興味を持たれたのはどういうことがきっかけだったのでしょうか?
僕の生まれ育った館林は利根川、渡良瀬川や沼がすぐ近くにあって、子どもの頃の遊び場はいつも川とか沼でした。毎日のように「川行こうぜ」「沼行こうぜ」と友達と楽しく遊んでいました。水に囲まれ水と親しむということが原体験として刷り込まれていったんですね。そして大学に入学して荒川区のアパートで初めて飲んだ水道の水があまりに不味くてショックを受けた。まるで金魚鉢の水のような味でした。嫌だなあと思ったのと同時に水道の味は場所によってずいぶん違うんだということにあらためて気づいたんです。それから、いろいろなところの水を飲みたくなって浄水場巡りを始めました。全国300カ所くらい回りました。大学生としてはマニアックな趣味ですね。
――水ジャーナリストとしての活動はいつ頃からですか?
大学を卒業後、出版社勤務を経て自分でものを書く仕事を始めた頃に、たまたまでしたが、「あんた水のこと好きなんでしょ?」と言ってくださる方がいて水の取材の話がありました。国内でいろんな水や百名水の取材をしに行ったりとか、海外のミネラルウォーターをレポートしたりとか。ちょうど海外から日本にミネラルウォーターが入ってくる頃でした。93年だったと思います。
――確かに次々と発売されるミネラルウォーターが気になっていた時代でしたね。
そうですね。日本において水を買うことがふつうのこととして広まり始めた頃です。その後、フランスのヴィッテルにミネラルウォーターの取材に行き、フランスでは効能がある水を飲むことが医療行為として認められている、というようなことを雑誌などに書いたらすごく反響があり、読者からいろいろな問い合わせを受けるようになりました。最初は良かったのですが相談内容がだんだんとエスカレートして…。「糖尿病に効く水は?」とか、「うつ状態にある私はどういう水を飲んだらいいか」みたいな問い合わせが来るようになり、これは何か違うな、と思い始めたのです。
――とおっしゃいますと?
僕はちょうどこの頃、パキスタンとかバングラディッシュなどにも取材で行っていた時期でした。バングラディッシュでは水道水を飲んで子どもがヒ素中毒になっていたり、パキスタンでは町の生活排水が流れ込んだ水を飲んでいた子どもたちがお腹をこわして死んだりする悲惨な現実を見ていました。明日の水がなくて、どうしたらいいか悩んだり死んだりしている厳しい世界がある一方で、おいしい水、健康にいい水の問い合わせにペラペラとしゃべっている自分は何なのだろうと、そのギャップを受け止められなくなってしまった。自分はいったい何を伝えたいのかがわからなくて本当に悩みました。
――解決の糸口はどのようなことだったのでしょうか?
視点の変化だと思います。アジアの水もお金もない地域には、飲み水にもこと欠くくらい本当に水を必要としている人たちが居る。僕は、まずそういう人たちの水の問題を伝える必要があるのではないかと思うようになりました。するとそれ以降、取材をするときのスタンスが変わって来たのです。世界中でどんな水問題があるのか、そしてそれを解決していくためにはどういう考え方や方法があるのかというところに力点を置いて取材するようになりました。そこにポジションを置くようになったら、少し楽になったというか…。自分の中で抱えていた変な矛盾みたいなものを解消できたという感じがしました。
――橋本さんの水と人への愛情を感じるお話ですね。

水の利用法とか、人間がどう水の恩恵を受け続けるかということを考えていくと、20世紀的な、水を使って、使い終わったら流す、というような単純で自己中心的ではない方法が求められているんだと思います。そのためには皆が問題を共有して、考えることが必要だと思います。水の授業などでも、自分がこうだと思っていることばかりを伝えるのではなく考える場を作りたい。自分の仕事はそこなのかな、場が提供できれば良いのかな、と考えています。
橋本さんはいろいろなエピソードを交え終始にこやかにお話をして下さいました。穏やかに話される中にも人々に水の大切さをどう伝えるか、いかに水の問題を考えてもらうかを追求される強い想いを感じました。後編では、最近の水に関する課題や今後の活動への抱負などを伺います。
by ニフティ「想い伝え隊」岡本、宮坂
関連サイトの紹介
●「みずのがっこう」
橋本淳司さんが副校長をつとめる「みずのがっこう」(Think the Earthプロジェクト主催)
からのお知らせです。
http://www.thinktheearth.net/jp/waterplanet/
●アクアスフィア 橋本淳司事務所のホームページ
http://www.aqua-sphere.net/index.html
関連書籍の紹介
橋本さんの著書をご紹介します
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