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Vol.20 石戸奈々子さん(後編) デジタルクリエイティブな未来の子どもたちのために

東京大学工学部を卒業後アメリカに渡り、マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボで客員研究員をしていた時代に経験したデジタルの新しい表現やコミュニケーション方法、そして人との出会いが今の活動の原点という石戸奈々子さん。ワークショップやイベントに参加した子どもたちに変化などについてもお話を伺いました。

――マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボで客員研究員をしていた時代に経験したデジタルの新しい表現やコミュニケーション方法や人との出会いが今の活動の原点とお聞きしております。

CANVASを立ち上げた頃、私はボストンにあるMITメディアラボという研究所におりました。
メディアラボでは、「テクノロジー」、「アート」とならび、「子ども」を3本の研究の柱の一つに置いて、学習、表現、遊びなど子どもとデジタルとの関わりを総合的に研究していました。「最新のデジタル技術が、子どもたちの学び方、教育を抜本的に変える。デジタル革命は世界規模の学習革命を必要とし、またそれを可能にする」とおっしゃっている先生がいて、例えば、レゴと一緒に「マインドストーム」と呼ばれるロボット教材を開発していました。また、誰でもが簡単に作曲や演奏ができるデジタル楽器を開発する「トイシンフォニー」というプロジェクトも行われていました。
最近ですと、100ドルパソコンもメディアラボの産物です。100ドルでラップトップを作り、それを何百万人もの開発途上国の子どもたちに配ろうというプロジェクトです。学校を建設し、教師を雇い、教科書を揃えるといった資金を持たない世界の多くの地域に、ネットワーク化されたラップトップというツールを与えることこそ、学習への最短距離だという理念に基づいて動いていました。

――メディアラボはまさにデジタルの新しい表現やコミュニケーションを開拓する場、つまりデジタルの未来社会を生み出す場だというわけですね。

パソコンを操作しながら説明してくださる石戸さん
【パソコンを操作しながら説明してくださる石戸さん】

はい。メディアラボでは、技術を開発するだけではなく、それを活用して、実際に教育現場でワークショップも実施していました。
コンピュータ・クラブハウスという名の放課後センターを各地につくり、アニメーション、ロボット、ビデオゲーム、音楽などさまざまなワークショップを行っていました。また、各国の子ども博物館、科学館、学校関係者などとの関係を築き、世界的なコミュニティの要としても機能していました。つまり、開発・実践・普及の一連の流れを全部持っていたのです。
日本もこのような情報の共有・交換機能を強化することが求められるのではないか、と思いました。

――日本でもメディアラボのような一連の流れを持った取り組みが必要と感じられたわけですね。

そうですね。日本は、先生から生徒への一方通行の詰め込み教育は得意だったかもしれないけれど、コミュニケーションしながら、まわりの友だちと協働しながら、表現するタイプの学習は苦手でした。なので、メディアラボが提唱するような学習に関する方法論や教育論、ICTによる子どもの学習、創造、表現という取り組みは日本の方が必要とされているのではないか、と思ったのです。
新しい教育手法を生み出すテクノロジーの開発や新しい技術で子どもが創造力を発揮する環境の整備。それを、日本でやりたいなぁ、と思いCANVASの活動がスタートしていきました。

――CANVASの活動実現に向けて具体的にはどのようにアプローチされたのですか?

当時、メディアラボには、現在CANVAS副理事長で、慶應義塾大学教授の中村伊知哉さんがいらして、一緒に立ち上げることになりました。場、人、経験、さまざまな出会いに恵まれてCANVASは立ち上がりました。
CANVASを設立した2002年から小中学校で、2003年から高等学校で総合学習の導入が始まり、とてもタイミングよく新しい教育への挑戦が始まっていました。また、e-Japan戦略に基づいて、学校のデジタル環境、パソコンスキルを教える環境も整いつつありました。しかし、情報を得て、知識を得て、スキルを得た後に本当に求められる創造性・表現力に対する取り組みが不足している時期だったと思います。

――CANVASの活動はどれくらいの規模で運営されているのですか?

CANVASは設立当初から、「1億総クリエイターとなってこれからの社会をみんなで作っていこう、これからの社会を、未来を作っていくのは子どもたちの世代だ」というのをスローガンに、全国の取り組みを有機的に連結させ大きな運動体とし、子どもたちが何かを創り出していくプラットフォームを作るということに取り組んできました。ですので、産官学のネットワークづくりにも積極的に取り組んでおり、各地でワークショップの活動をしている方々、ミュージアム関係者、学校関係者、大学などの研究者、さまざまな分野のアーティストの方々、企業の方、官庁・自治体の方々など、現在では全国で子どもたちのクリエイティブ活動に参加する260名のフェローという方々に支えられ、活動を推進しています。

――たくさんの方が関わられている活動なんですね。

事務局はあまり大きくないのですが、CANVASだけで推進するプロジェクトは一つもなく、すべていろいろな方と連携しながら進めています。そのコラボレーションが面白さだったりします。ワークショップコレクションはまさにそのプラットフォーム機能を可視化したイベントです。子どもたちの創造・表現の場であり、クリエイティブ活動をしている大人たちの出会いの場でもあり、今後クリエイティブ活動をしたい人としている人との出会いの場であるわけです。

――デジタルの未来社会は、今後、いろいろ変わっていきそうですね。

以前、「キッズデジタルサミット」というイベントを実施しました。日本、アメリカ、タイの子どもたちをつなぎ、子どもたちがデジタルの未来社会を考えて大人に提言するサミットです。大人代表としては、慶應義塾大学の村井純先生や、Googleの副社長のヴィントン G. サーフさんなどが来てくださいました。
バーチャルで五感を体感できるバーチャルとリアルの世界がつながる社会、学校の外の世界を教室に再現する未来の学校、エージェントとして動いてくれるペット型ロボット。最先端の情報技術やコミュニケーション技術を駆使したSF的な世界を提案する子どももたくさんいる一方で、空気を燃料として走る未来の乗り物、ゴミを燃料として二酸化炭素を吸って酸素を出す風力バイク、段差がない街づくりなど、環境、健康、高齢化社会など、人類にとっての未来の課題をカバーする提案も多数ありました。

――子どもたちの想像力はすごいですね。

子どもたちには未来を想像し創造していって欲しい
【子どもたちには未来を想像し創造していって欲しい】

未来を作るのは子どもたちだと改めて感じました。イマジン&リアライズという言葉があります。すべてのきっかけになったメディアラボが教えてくれた言葉で、私の大好きな言葉です。想像して創造する。子どもたちには、想像する心と創造する力の両方を培ってもらい新しい未来を作って欲しいと思いますし、そんな子どもたちがフルスイングできるような環境を大人が作っていかないといけないと思って活動しています。

――いろいろ活動される中で、子どもたちの変化を感じられることはありますか?

CANVASが行っているような活動は「ゆとり教育だよね」と言われたりします。しかし、イベントやワークショップに参加する子どもたちは、お昼を食べる時間ももったいない、休むのも嫌だと言いながら、ものすごく集中して制作に取り組んでいます。そんな集中力を課す授業はあまりないですよね。そういう意味では、ゆとりではなく詰め込みかなと思っています(笑)。そして、子どもたちは学習しているつもりはなく楽しんでいるのだと思いますが、気がつくといろいろと学んでいるわけです。
保護者の方からは「これをきっかけに生活態度が変わりました」という反応がとても多いです。例えば、3日間のサマーキャンプに参加した子どもの保護者からは、「すごく楽しくて、今まで一度も自分から起きたことがなかったのに、親よりも早く起きて3日間通っていたら、新学期が始まっても自分から起きて学校に行くようになったんです」、「今まで引っ込み思案で学校で手を挙げられなかったのですが、初めて会う友だちとグループワークで一つの作品を作り上げたことが自信になり、次の学期で学級委員に立候補できたんです」とか。そのような子どもたちの変化のご報告はたくさんいただいています。

――これまでの活動の中で、苦労されたことなどありましたら、お話を伺えますか?

忘れてしまっているだけかもしれないですけれど、今振り返ってみて、苦労したことと言っても、思い出せないです。常に楽しかったです。そうですね、あえて言うなら、NPOでの公益活動ですので、資金の問題というのはありましたが、いろいろな方々のご支援の中で、なんとかやりくりしながら、ここまでやってきました。

――最後にひと言、お願いします。

いつもすばらしい出会いに恵まれて感謝していますと笑顔で語る石戸さん
【いつもすばらしい出会いに恵まれて感謝しています
と笑顔で語る石戸さん】

これまで、本当に出会いに恵まれていたといつも感謝の気持ちでいっぱいです。「こういう方と一緒にできたら、こんなことができるだろうな」と思っていると、そのプロジェクトが始まる瞬間にまさにその人に出会えたり、「こういうことをやりたいな」と思っていたらそういう機会がきたり。「強く願えば叶う」と心から信じています。これからもたくさんの出会いを大事にして、みなさんと新しい未来社会を「イマジン&リアライズ」していきたいと願っています。

インタービューを通して、子どもたちに未来を想像し創造していって欲しいと願う石戸さんの熱い想いが伝わってきて、たくさんの元気をいただくとともに、とても温かい気持ちになりました。私たちも「願えば叶う」を信じて、すばらしい未来を切り開いていきたいとあらためて感じました。素敵なお話をありがとうございました。
(子どもの創造力と表現力を育てるCANVASのワークショップについては、以下のお知らせをご覧ください)

by ニフティ「想い伝え隊」大空、岩渕、有泉

「石戸奈々子」さんからのお知らせ

関連サイトの紹介

●CANVASのホームページ
  http://www.canvas.ws/

●石戸さんが普及啓発活動作業部会の副主査として関わっておられる
安心ネットづくり促進協議会へのリンク
  http://good-net.jp/
  http://good-net.jp/modules/pages/banner_dl.php

書籍の紹介

石戸さんの著書を紹介いたします。

デジタルサイネージ革命 イメージ画像 デジタルサイネージ革命
中村 伊知哉 (著), 石戸 奈々子 (著)

税込価格:1,365 円(税込)
ISBN-10: 4022505982
ISBN-13: 978-4022505989
出版社:朝日新聞出版
発売日: 2009/6/5

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