宍塚(ししつか)の里山の保全活動に尽力する及川さん。今回は保全活動の意味やそれを展開する上で何が大事なのか、実例を交えて伺いました。
―――会を運営する上でもっとも大事なことは何ですか

活動を継続するにあたってもっとも大事なのは、地権者や地元の方々に理解され、受け入れられることだと思います。私の場合は30数年前にここに越してきた、いわば「よそ者」なんです。そんな私をこの地域の方々が受け入れてくださったことは、大変感謝しています。それだけではなく、例えば「地元には美味しい豆があるんだよ」と言って宍塚で昔から栽培されている「たのくろまめ(田の畔豆)」という大きな大豆を分けていただきました。今「たのくろまめ」は会員の手でも栽培され、それを原料にお味噌を作っています。こうしてできたお味噌をお世話になった地元の方にお分けして「今年は特にできがいいなぁ」なんて喜んでいただいています。また、里山の環境を調べるだけでなく、この地域の歴史や昔の宍塚での生活や文化を知る必要があると言うことで歴史部会を作り、お宅に伺って昔の話を聞かせていただいています。そうしたお話をまとめ、これまで2冊の本を出版しました。1999年に出版した「聞き書き 里山のくらし ―土浦市宍塚―」は、茨城県の中学生向け推薦図書に選ばれました(現在絶版)。また同時に、月一回発行している会報を地元の方々にお配りし、ご覧いただいています。これによって会が今どのような活動をしているのかを地域の方々にお知らせし、会の活動へのご理解をいただいているわけです。
―――会の活動に関して地元の方から理解を得られているということですが
実際に役立っているような事例はありますか?
はい。環境省が今後100年間、日本全国で約1000箇所を選び、定点調査を行うという「モニタリングサイト1000」が始まり、宍塚の里山もそのコアサイトとして選ばれました。その一環として、宍塚の里山では赤外線による夜行性動物の撮影調査を行っています。そして2007年9月に宍塚の里山でアライグマが確認されました。それまでアライグマは茨城県ではあまり確認されていませんでした。愛嬌のある顔でかわいいのですが、農作物への被害や、生態系の最上位に位置する動物として生態系への深刻な影響が危惧される特別外来生物です。そこで研究者と相談し、まず茨城県でのアライグマに関する情報提供を県民に呼びかけ、情報は県立博物館に集約することにしました。その結果、土浦、県北、県西の3箇所でアライグマが生息していることが確認されました。宍塚では2頭捕獲しましたが、何頭いるのかはわかりません。そのため県議会にアライグマの生息調査と対応を早急に行うように請願しました。その結果県議会でその請願が通り、今、県が捕獲の計画を立てているところです。これは一例に過ぎませんが、このような活動を通じて行政とのコミュニケーション、ネットワーク作りが進行していったのです。このようなネットワークによって、私たちの活動が宍塚の里山だけでなく、地域に広く役立っていると思っています。
―――アライグマをはじめ、外来種にはいろいろな問題があるんですよね?
全国の湖沼の問題として、ブラックバスに代表される外来種の問題があります。例えばブラックバスは繁殖力が旺盛で個体数が劇的に増えるだけでなく、それまでそこに生息していた魚やトンボのヤゴなどを根こそぎ食べてしまいます。その結果、そこに生息していた生物がいなくなってしまうと言う事態が起きています。しかし、だからと言って単純に外来種を絶滅させればいいと言う問題ではないんです。例えばブラックバスやブルーギルといった外来種を完全に駆除してしまうと生態系のバランスが崩れ、それまで外来種に捕食されていたアメリカザリガニが繁殖しすぎて水草がだめになってしまうんです。ですから、単純に外来種を排除するのではなく、その環境の「外来種も含めた生態系のバランス」をどう守って、より豊かな生態系にしていくのかという視点で、その生物の量を管理していくことが大切だと考えています。
―――里山の自然を保全することの意義とは何ですか

里山の自然を保全すると言うのは、二つの観点があります。一つは「生物多様性」。もう一つは「地球温暖化防止」という観点です。
まず生物多様性の観点ですが、今多くの生物が絶滅の危機に瀕しています。「トキ」や「メダカ」が日本では代表的なケースだと思いますが、都市の近代化や農薬の使用、乱獲などによって、昔はあたりまえに身近に生息していた生物が、種の危機にさらされている。そういうケースが非常に多いんです。人間も自然の一部を構成する種の一つです。種が減ると言うことは、生態系が破壊されていると言うことであり、それはやがて人間にとっても食料不足と言う形で襲ってくる問題なんです。人間はともすれば自然を忘れがちですが、多くの種が生存できる環境を守ると言うのが人類の生存と言う意味でも重要なんです。その意味で言えば、宍塚の里山では今まで65種のチョウが確認されています。これは日本に生息するチョウの4分の1以上の種がいることになります。それだけこの里山が豊富な種が生存できる場所であるということです。これをさらに多くの種が生息できる場所にしていくことが、とても重要なんです。
また、「地球温暖化防止」という観点でいえば、森林は二酸化炭素を吸収するばかりでなく、亜酸化窒素や空気中の細かいホコリなども吸収することが知られています。森林は空気清浄機の役割も持っているのです。このようにこれ以上空気を汚さないためにも、そして温室効果ガスを植物と言う形で固定するためにも、森林という存在は非常に重要なのです。
―――活動する上での「決め手」は何ですか

今私たちは県や市の方と2ヵ月に一回、茨城県ならではの里山保存の方法を模索する学習会をしています。また、前回お話した竹の性質は、大学の先生とのふとした会話から、ある学生さんの卒業論文テーマにしていただいてわかったものです。一方、例えば企業の社会貢献活動として使っていただいたり、環境学習として学校に使っていただいたりしています。さらに他の自然保護団体との情報交換などを通じてノウハウの共有を行っています。また先ほども申しましたが、この宍塚と言う場所でどのような生活がなされていたのかを知るために、地域の方々への聞き書きを行っています。このように、地域住民の方々とのコミュニケーションや、行政、教育、研究、団体、企業などとの色々な人的ネットワークを広げていくことが大事だと思います。そして関わった方々がそれぞれの責任にもとづいて、里山を後世に残すという共通目的のもとに協力し合いながら行動することで、私たちだけではできないことも可能になっていきます。私たちの会がその中核にいる必要はありません。ある部分は行政が中心となり、ある部分は研究者の知見にもとづいてと、それぞれが活動することが大事だと考えています。必要なのは、この里山を後世に残していきたい。その想いを共有し、それぞれができる活動することだと思っています。
宍塚の里山という舞台で行動する及川さん。今回のインタビューを通じて、そのエネルギーの源泉を垣間見たような思いがしました。それは自然と人間がゆがんだ姿でなく共生している状態。その実現を心から望み、そのために考え行動する。里山について語る及川さんはとても輝いて見えました。
by ニフティ「想い伝え隊」久保田
定例イベントの紹介
※どなたでも参加できます
●月例テーマ観察会
毎月第一日曜日 9:30~12:00
※7月のテーマは「粘菌」。7月5日に行います。
●土曜観察会
毎週土曜日 9:00~12:00
●里山子ども探偵団
毎月第四土曜日 10:00~12:00
●里山さわやか隊(里山ボランティア活動)
毎月第二、第四日曜日 9:30~12:00
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