茨城県土浦市宍塚(ししつか)。ちょうどJR常磐線土浦駅とつくばエクスプレスつくば駅とのほぼ中間地点に、広さ約100ヘクタールに及ぶ大きな里山、「宍塚の里山」があります。ここで環境保護活動をされているNPO法人「宍塚の自然と歴史の会」の理事長、及川ひろみさんに宍塚の自然と歴史の会を作るきっかけや、活動についてお話を伺いました。
―――どういうきっかけで、「宍塚の自然と歴史の会」を作られたんですか
「宍塚の自然と歴史の会」ができて今年で20年になりました。きっかけは、その少し前にあった宍塚一帯の開発計画です。それが色々な理由で頓挫し、この宍塚の里山が残されました。実際に自分の目で宍塚の里山を見たとき、その豊かな自然と環境に感動したんです。これは未来に残さないといけない。そしてこの自然を有効活用したい。そう思ったんです。そこで里山を調べているうちに仲間ができてきました。そうして仲間内で活動しているうちに大学の先生との出会いがあり、具体的にどうすればこの自然を残せるか、有効活用できるかという話や活動が始まりました。それらの結果、「宍塚の自然と歴史の会」ができたわけです。
―――具体的に、どのような活動をされているんですか
この里山の中にはさまざまな生物の住む環境があります。森があり、草地があり、池があり、湿地帯があり、田んぼがあります。色々な環境の中にそれぞれ生態系があり、それぞれの生態系のバランスの中で、生物が生きているわけです。われわれ人間の役割は、その生態系のバランスが崩れないように、そしてより複雑な生態系ができあがるようにすることだと思っています。ですからそのような里山の生態系のバランスを整える活動、どのような生物が生息しているのかを調査し、外来種の魚が増えてきたらそれを減らす、竹林が拡張してきたらそれを減らすというような、いわゆる里山の生態系のバランスを守るという活動を行っています。

また、農業体験の提供という観点から、田んぼ塾というのをやっています。これは年間を通じて無農薬での稲作りを学んでもらうというものです。塾生を募り、稲籾を蒔き、それを育てる。その間に田んぼの整備――水漏れがないように「しろかき」をしたり、「あぜ塗り」をしたりという作業。そして田植えをする。そして田植えが終わったら「たなぐり」というお祭りをやる。その後、草が生えてきたら除草、どのように成長しているかの観察。また田んぼという環境にどのような生物が生息しているかを調べたりもします。そして稲刈り。塾生皆で収穫を祝います。そうして収穫したお米を1キロずつ持って帰ってもらう。このように、田んぼ塾は農業体験の提供と同時に、無農薬でもお米がいっぱい作れるという仕組みを作ろうという活動です。
それから、児童、生徒、学生を対象にした教育活動があります。今日も近くの中学2年の生徒さん210名が来られて環境保護活動をされました。これは前もって私が中学校へ行き、なぜ里山を守らなければいけないのか、どんな活動をするのかをレクチャーして、そして今日来ていただいたわけです。このように私たちの次の世代に環境保護活動の必要性とその実践を楽しみながらやってもらうという活動があります。これは里山を守るという観点からもとても重要なものと考えています。
―――次世代に里山を残すためにも、次世代への教育は大事ですね

そうなんです。教育というとすごいことみたいですけど、実際の活動はとても楽しいものなんです。まず、なぜ行うことが必要なのか目的を明確にし、どのように行うのか、手順を説明します。通常、1回70名ほどの生徒さんに対して10人ほどの指導者が参加して行っています。指導者はみなボランティアです。10人前後を1グループにして、例えば外来植物の除去などの作業をしてもらうのですが、みんなどうして里山を残していかなくてはいけないのかをわかってくれていますから、とても一生懸命やってくれるんです。時間が過ぎても止めません。中にはどうしたらいいのかわからないという生徒さんもいますので、そういう生徒さんには指導者がアドバイスして作業してもらいます。指導者はそれぞれ工夫しながら説明、作業を進めます。彼らがいきいきと行うことで、生徒さん達も意欲的になります。本当に作業している一人一人の生徒さんが輝いているんですね。そうすると今度は生徒さん自らがアイデアや工夫をして作業を進めていくようになります。何回も教育活動をやってきて気づいたのですが、そこで出てきたアイデアや工夫は、だいたい似たようなものなんです。ですので生徒さんの作業を見ながら「あ。今度はやり方を変えたな」とか「今度はそういう手を使うんだ」とか、生徒さんのアイデアや工夫が見えてきて、私たちも楽しいんです。生徒さんにも楽しんでもらって、私たちスタッフもそれを楽しんでという関係ができています。
―――植物では、今は竹の伐採をしているんですね
はい。竹というのは成長が早く繁殖力も高いので、そのままにしておくと他の植物の領域を侵食していくんです。また、竹の葉にはガラス質が含まれていて、広葉樹に比べ、葉が分解するスピードが非常に遅いんです。またそのため、雨が降っても竹の葉の上を滑ってしまって、雨が土の中になかなか入っていかないんです。さらに竹の根は非常に細く多方向に渡りますので、土の粒度が非常に細かいものになってしまうんです。その結果、竹林の土は水分や栄養分の少ない、細かい粒がぎっしり詰まったものになり、ほかの植物が育ちづらい環境になってしまうんですね。ですので、竹林が今以上に広がらないように、竹の伐採を進めています。
―――宍塚の里山を残す意義は…?

昔は、里山は人間の生活と密着していました。樹木やその枝は薪になり木炭になり、落ち葉をかき集めて堆肥としたり、池では魚やエビなどをとり、田んぼや畑で食物を生産していました。それが太平洋戦争後、生活様式の変化や農業の機械化などによって、里山と人間との距離ができてしまった。その結果、里山の生態系が崩れ、いわゆる「森が荒れる」という状況が起こりました。原生林と違って里山は人間がバランスを考えながら介在することによって、生態系が維持されていたんです。また、宍塚の里山は都市近郊の約100ヘクタールという広大な土地に里山がそのままの姿で残っているという、現代では極めて珍しいケースなんです。ですから、私たちの子孫にこの里山の自然を残すためには、生態系を維持・発展するように人間が手を貸す必要があります。それが里山の保全ということであり、そこに私たちの活動意義であるわけです。
今回のインタビューは、宍塚の山里の大きなクルミの木の下で行いました。カッコウの鳴き声を聞きながら、そして時々目の前に来る虫を追い払いながらの、里山の自然の中でのインタビューでした。及川さんの宍塚の里山を後世に残したいという情熱と、そこから生まれるエネルギーを感じながらの約1時間は、普段コンクリートジャングルの中で生活している自分には、とても心地よい体験でした。後半は、宍塚の里山で今起こっていることや、里山を後世の残すために必要なことは何かを伺います。お楽しみに。
by ニフティ「想い伝え隊」久保田
オフィシャルサイト、出版物の紹介
●「続 聞き書き 里山の暮らし ~土浦市宍塚~」
A5版 334ページ
価格 1950円(税込)
※つくば市、土浦市の主要書店、宍塚の自然と歴史の会オフィシャルサイトにて
お求めいただけます。
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