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Vol.13 小泉和子さん(後編) 人とのつながりが私を育てた

昭和30年代のくらしをもう一度見つめ直すと、その中で見えてくるものがあると語る小泉さん。後半は、家具の歴史の研究者になったきっかけやその後の展開、そして昭和のくらし博物館に寄せる想いを語っていただきました。

――家具の歴史の研究者になられたきっかけは

インタビュー中の小泉さん
【インタビュー中の小泉さん】

私は女子美術大学で油絵を描いていたのですが、父の影響もあって建築とか家具というものにも馴染みや興味があったんです。しかし古い時代の家具について調べていこうとしたら本や資料がないんですね。そんな時に仙台の方に古い家具があるということを知りました。とにかく仙台に行き、道を聞きながら、家具屋に行ったんです。その時に職人さんに会って話を聞いたんですが、こういう古い時代の家具を調べて残していかないとわからなくなってしまうと思ったんですね。それが、家具の歴史を研究し始めたきっかけです。これが昭和34年のことです。

――研究者になりたての頃は?

まだその頃は下丸子(東京都大田区)に通産省の付属研究機関、産業工芸指導所があって、そこの図書館に近代の家具の資料が若干ありました。近所だったこともあって、その図書館で少しずつ調べていくうちにスタッフとも馴染みになって、家具のことを調べてる人がいるという噂が広がり、次第にあちこちから古い家具のことを書いてくれと言われるようになったのです。一つ書くと、また仕事が来るんです。しばらくして目黒に引っ越したら近所に明治大学で歴史を教えている先生がいらして、その先生から風俗史学会に入らないかって誘われました。そこで箪笥に関する論文を書いたり、勉強していったんです。そのうち、学会から近代百年の歴史を種々の角度から取り上げる本を出すことになり、近代家具史を書いたんです。その本を編集していたのが東大の建築史の先生で、それがご縁で東大の研究生になりました。当時は家具史なんていうことをやっている人がいなかったから、建築の歴史を学ぶ方法論で家具の歴史や様式を調べていったんです。5年間研究生をやり、工学博士号をとりました。

――人とのつながりが研究者としての道につながっていったんですね

博物館の中庭で
【博物館の中庭で】

そうですね。そうこうしているうちに、結構仕事がやってくるようになりました。でも、それだけでは食べていけないので、自宅で絵画教室をやっていました。その一方で、全国の箪笥を実地調査したりしていたんです。すると今度は古い洋家具を復元する仕事を頼まれるようになったんです。最初の仕事は、天鏡閣(福島県)という有栖川宮威仁親王の別邸(1908(明治41)年)なんですけど、建立当時の洋家具の復元を手がけたわけです。それがきっかけになって全国各地の重要文化財近代建築(洋館)の家具の復元も手がけるようになりました。すると今度は漫画日本の歴史での家具の時代考証を求められました。時代考証という点では漫画、テレビなど次から次へと話が舞い込んで来ました。

――京都女子大に行くきっかけになったのは?

京都女子大には67歳から73歳までのまでのあしかけ7年勤めました。私が家具の歴史という学問分野を開拓したわけですね。やってみると非常に重要な学問分野なんですけれども、大学っていうのはなかなか新しい講座も作れないわけですね。非常勤講師や客員教授というお話はたくさん来るんですが、正規の講座というのが作れないんです。ですから後継者を作る土壌ができないんです。そういう時に東京大学の同じ研究室だった方が京都女子大にいらして、教授として迎えるから後継者を作ってくれという話で、京都女子大に行くことになったんです。で、教授として勤めたわけですが、成績のいい子は就職しちゃうんですね。研究しなさいといっても就職口が開かれているわけじゃない。条件が整っているわけじゃないので、それで生活を支えるというのは難しい。なので積極的に研究しろとは薦められないんです。やっと一人後継者が出ましたので、とにかく研究発表の場を用意しないといけない。そのために、2008年に家具道具室内史学会を作ったんです。

――最後に、昭和のくらし博物館の存在意義とは何でしょう

昔の自転車が時の流れを静かに刻んでいます
【昔の自転車が時の流れを静かに刻んでいます】

今はすごく教育が進んで、色々なことができるようになりました。しかし、生活のレベルがどんどん高くなっていったけれど、それが本当に豊かな生活に結びついたかというと疑問ですよね。便利さ、快適さが生活の豊かさだと思って追い求めてきたというのが、日本だけじゃなく今の世界全体の姿でしょう。それは人間の宿命で、グローバルな視点では科学技術の進歩はある。けれども、自分の生活というものに立ち返った時に、科学技術の進歩にゆだねるか、もっとセーブして自分の生活様式を別に持つかっていう問題があると思います。どちらを選択するかというのがそれぞれの生き方なんですが。どういう生活をしているにせよ、便利さや快適さと生活の豊かさとは違うっていうことを知っている必要はあると思うんです。特に子どもは知ってるか知らないかでずいぶん違うと思います。子どもがそういうことを知らないと、どんどん変な方向に行ってしまうと思います。金さえ儲ければいい、便利であればいいって。私の世代はそうじゃない生活も知っていてだんだんに変わっていったけれども、今の若い人は最初から便利な世界で生まれてきた。だからすごく心配なんです。あるものを上手に使って自然の中で生きていけばいいじゃないと考えてほしいと思います。そういう意味で、私はこの家を、生活を考える場として捉えてもらいたいと思っています。昔の生活を通じて今の生活を振り返った時にどう見えるのか。今の生活を考え直す一つの足場、そういう風に。

インタビューをしている時の小泉さんは、全身からパワーが吹き出ているような、そんな迫力さえありました。それは、これまでの生き様が凝縮されエネルギーとして放出しているような、そんな感じでした。でも、昭和のくらし博物館は静かに優しく時を刻んでいます。それは私たちが忘れかけている「何か」を思い出させてくれるように、たたずんでいるのでした。

by ニフティ「想い伝え隊」久保田、浦田

「小泉和子」さんからのお知らせ

書籍の紹介

小泉さんが執筆・編集された書籍を紹介いたします

昭和のくらし博物館  らんぷの本 昭和のくらし博物館 らんぷの本

価格:1,575円(税込)
ISBN:4-309-72704-2 河出書房新社(2000)

和家具  別冊太陽 和家具 別冊太陽

価格:2,625円(税込)
ISBN:4-582-92137-X 平凡社(2005)

室内と家具の歴史  中公文庫 室内と家具の歴史 中公文庫

価格:1,200円(税込)
ISBN:4-12-204585-1 中央公論新社(2005)

昭和のキモノ  らんぷの本 昭和のキモノ らんぷの本

価格:1,680円(税込)
ISBN:4-309-72752-2 河出書房新社(2006)

銀座育ち  朝日選書 回想の明治・大正・昭和 銀座育ち 朝日選書
回想の明治・大正・昭和

価格:1,631円(税込)
ISBN:4-02-259662-7 朝日新聞社(1996)

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