日本IBMを独立後、青少年のインターネット利用に関する執筆・講演を数多く手がけられ、二児の母でもあるネット教育アナリストの尾花紀子さん。子どもたちがインターネットや携帯電話で危険な事件に巻き込まれないためにはどうしたらいいか、親としてすべきことなどについてのお話を伺いました。
--ネットが絡む事件や犯罪に巻き込まれる子どもたちが後を絶ちませんが、尾花さんからご覧になって何か最近の特徴のようなものがありますか?
男の子と女の子で違いますが、男の子はネットの外側にいながら使います。そして、ネットの中で見つけた興味ある“こと”を現実に引っ張り出したくなる傾向があるようです。実際、ネットで見つけた作り方どおりに爆弾を作って公園で爆破実験をしたり、バーチャルのゲームでの体験を試したくなったりしてしまい、猟奇的な殺人を起こすような事件も起きています。一方、女の子の場合は、ネットの中に入り込んで使います。感情移入傾向がありますから、ネットの中で生じた“感情”を現実まで引きずりがち。ネットで出会った人に憧れの念を抱いて会いたくなってしまったり、ネットの中のトラブルが殺傷事件に繋がってしまったりするのです。もちろん、全ての男の子・女の子がそうだとは言い切れませんが。
--男の子と女の子では傾向が違うのですね。男の子の場合は、どんなことに注意したらいいのでしょうか?
男の子がネット上でヌード写真やアダルト映像などを覗き見ることに対して、親はまず、精神衛生上(あるいは健全育成上)好ましくないと考えるでしょう。でも、いい悪いとは別に、二つの“危険”の可能性があることを思い出して欲しいのです。一つは、アダルトサイトを見たという経験が、たまたま送られてくる架空請求の迷惑メールに反応するきっかけとなってしまう可能性。届くたびに「あのとき見たやつかもしれない・・・」と思って常にビクビクしなければならなくなり、親にも相談できないまま振り込んでしまうようなことも、実際に起きています。もう一つは、大きな写真や映像のファイルにまぎれてウイルスやスパイウェアなどが送り込まれてくる可能性。パソコンや携帯電話が壊されたり改ざんされたりするだけでなく、中にある個人情報が勝手に盗み出されたりすることもあるのです。ですから、興味本位で気安くクリックしない、万が一そういうサイトを表示してしまったら何が起こるかわからないと考えてすぐに中断する。具体的には、パソコンならブラウザを閉じる、携帯電話ならネット(パケット)接続を中断するか電源をOFFにする、ということをきちんと伝えてください。本当は、思春期の男の子なら誰でも感じる興味や欲求を、向こう側に人がいて何が起きるかわからないネットに向けないよう「仕掛けのない雑誌やビデオに!」と言いたいところですが、さすがに推奨するわけにはいきませんから(笑)そこは親の知恵と気転で臨機応変に対応してあげてください。
--では、女の子の場合は、どんなことに注意したらいいのでしょうか?
女の子はネットの中に感情を移入しがちだというお話をしましたが、その“感情”を察してあげたり、コントロールする力をつけてあげたりする必要があります。特に、ネットの向こう側にいる“人”への感情ですね。女の子たちは、自分の頭の中で勝手に“いい人像”を膨らませてしまうことがあるんです。相手との表面的なやりとりだけで、「とってもいい人」「私の味方なんだ」「この人だけが私の気持ちをわかってくれる」という風に、だんだんと感情移入の度合いが高くなっていってしまう、これがとても怖いんですよね。“いい人像”が大きくなった頃に「どこかで会って話そうか?」というメッセージをもらったら、「“いい人”を演じているだけかもしれない」という可能性を打ち消して「この人はそんな人じゃない」となり、実際に会いに行ってしまうわけです。
--出会い系サイトでの事件は、まさにそうですよね・・・
最近は、ニュースで怖い事件を耳にすることも多くなり、フィルタリングによる規制も手伝って、悪質なサイトにはアクセスしない子や用心する子も増えてきました。すると今度は、多くの善良な人たちが安心してコミュニケーションを楽しんでいる有名なサイトを悪用するようになります。夜の繁華街には行かなくても遊園地には行く、だから遊園地でいい人のふりをして声をかけよう!という感じでしょうか。警戒心を解いて楽しんでいる女の子たちは、そもそも大人ほどの判断能力や経験値も持ち合わせていないこともあって、ひっかかってしまう可能性も大。ですから、ネット上では電話番号やメールアドレスだけではなく、学校名を含む個人を特定する情報のやりとりは避けること、個人的にコミュニケーションをしたくなったら行動を起こす前に、必ず身近な第三者に相談することが大切です。親や先生といった大人が望ましいのですが、どうしてもイヤなら友達に冷静に見てもらうというのも一つの方法です。同じ中学生であっても、三人以上で見てもらえば、何か違和感があれば一人ぐらい「これ、何となくおかしい気がしない?」と指摘してくれるはず。とにかく、自分一人の判断で会いに行ってしまうようなことだけは、避けなければなりません。シミュレーション力がつけば、無用心にアクションを起こすことはなくなると思いますので、それまでは注意が必要ですね。
--シミュレーション力、ですか?

はい。シミュレーションゲームのシミュレーションです。次の展開を想像する力とでも言いましょうか。「もし、本当は同世代の女の子じゃなかったとしたら、どうする?」「この人が若い女の子を呼び出したいと思って騙しているとしたら、どうなると思う?」「会いに行ったとして、最悪のケースとしてどんな恐ろしいことが起きる?」といったリスクを連想ゲームのように考えるクセがつけば、自然と危機管理ができるようになります。ネットであるなしに関係なく、誘拐や監禁などは日々起きているのですが、どうも日本人は「自分だけは大丈夫」「それは自分とは無関係なところで起きていること」と思いがち。でも、どんなところに落とし穴があるかわからない世の中ですし、そこが楽しいゲームサイトであっても、小学生だけ、中学生だけ、という限定の掲示板だったとしても、安心してはダメ。そこにいる女の子をターゲットにしたいと思えば、年齢を偽って登録した大人の男性が、「13歳の女子です、同じ年の女の子、友達になりませんか?」とメッセージすることは簡単。ですからせめて、新聞やテレビでそういうニュースが話題になったとき、親子で、クラスで、いろいろと話し合いをして欲しいんです。きちんとコミュニケーションをとっていたら、実際の事件も記憶に残り、「もしかしたらこんなことが起きるかもしれない」とシミュレーションするようになるはずで、結果として、危険な行動は起こさないようになると思うんですよ。
--子どもを守るためにも、親子のコミュニケーションは大切なんですね。
はい、これは絶対です。ここ数年、ネットに関係する事件が起きるたびに、尋常じゃないほどメディアが大騒ぎするので、どうしたって子どもたちの目や耳にも飛び込んできます。「こんなに大騒ぎになるんだ!」と面白がっていたずら心で真似る子どもが出てくるのもわかりますよね。殺人予告などが顕著な例ですが、「誰が書いたかすぐに特定できるのに、捕まりたいわけ?」「何で犯罪行為だってわからないんだろう」「刑法違反だって知ったら、やらなくなるかなぁ」「こんなことしたら、これから先一生、逮捕歴・検挙歴がついてしまうのにねぇ」というような会話を、我が家ではよくしています。子どもとコミュニケーションをするネタをメディアが提供してくれていると思って、とにかく自然な会話をしながら、その中できちんと導いてあげられるといいですね。それからもう一つ、どうしても教えてあげなければいけないのは、携帯も含めてネット上での人の悪口、誹謗中傷は本来禁止なのだということです。子どもには、「人のいないところで陰口を言うな」って一喝してもいいかもしれません。そしてもし、そういうことで自分が困ったり、困っているお友達に気付いたりしたら、親や先生に伝えること。これも大切なコミュニケーションですよね。
--子どもにインターネットを上手に使わせるために、いいアイデアはありますか?
小学5、6年生~中学生になると、自分の部屋にパソコンが欲しいと言い出す男の子も多いようです。自分だけの秘密基地にこもって誰にも干渉されず調べ物‥‥がいいみたいですね。その気持ちはよくわかります。もしもご自宅にノートパソコンがあれば、それを子ども部屋に貸し出す、という対応が良いんじゃないかと思います。電源を渡さず、2時間経ったら返してもらうようにするとか。「まだ途中なんだけど」といわれれば休憩しながら充電をして、少し延長してあげるんです。10~13歳くらいの男の子の部屋に、ブロードバンドでネットに24時間つなぎっぱなしの環境を作るのは、私はあまり賛成ではありません。ですから、「中学生になったから、お祝いにパソコン買って」というような話になったときには、可能ならノートパソコンにしてあげてください。デスクトップパソコンはあくまでもリビングに置いて、家族が自由に使えるようにしておくのです。私の経験上、女の子の場合はリビングでやりなさいと言ってもそれほど文句は言わないようですよ。外側にいながら道具として使う男の子と違って、中の世界に入り込む女の子は一人で使うことよりも自由に使わせてもらえることのほうが大切なので、うるさく言われなければリビングでもいいわけです。ただし、使い始めると女の子のほうが危ないんですよ。男の子は目標に向かって集中して調べるのですが、女の子は何かひとつのことを調べようとしているのに、気がついたら全然違うページに行ってるんですよね。“不思議の国のアリス現象”と私は言っています(笑)。要するに、まっすぐ向こうに見えるお城に行かなければいけないのに、「うさぎさんが右に行ったわ!」とついつい右にそれてしまうアリスのような動きをするのです。女の子は目の前の気になることに流される傾向があるので、危ないサイトに行かないように、余計なページで遊び過ぎないように、時折声をかけて軌道修正してあげたい。子どもを見守る意味でもリビングでパソコンを使わせるのがお勧めなんです。
--子どもと会話をしようと思っても親がよくわからない場合はどうしたらいいでしょうか?
まずは、「親は子どもより何でも知っていて、親は子どもにどんなことでも教える立場であるべき」と考えるのをやめましょう。パソコンも携帯電話もインターネットもある時代に生まれた子どもたちは、柔軟で好奇心旺盛な年齢でもあり、何でもすぐに使いこなせるようになってしまいます。ですから、“親だから”などと考えず、わからないことは子どもたちから教わりながらコミュニケーションをとっていくと良いと思いますよ。たとえば、「プロフってどんなの?」「デコメってどうやって送るの?」「この前撮った写真を送りたいんだけど」のように。何か調べ物を頼んでもいいかもしれませんね。「ねぇねぇ、ゴーヤチャンプルの作り方を調べてくれない?」「今夜作るから、印刷してくれる?」って。ネットの知識や技術なんて知らなくてもいいんです。こんなふうに、ネットを使いながら子どもと会話をすることを習慣化していきましょう。
--携帯電話を子どもに使わせる場合、どんな約束をしておくと良いでしょうか?
携帯電話を買うときの約束として『充電器はリビングに置く』というのがお薦めです。「ただいまー」と帰ってきた瞬間に自分の部屋に入ってしまわないで、リビングに来て充電するじゃないですか。顔が見られるでしょう?ただし、子どもに対して『充電中に無断でメールを見ない』と約束してあげる必要があります。そして、約束は守ってくださいね。メールを見られる可能性があれば、子どもは自分の部屋に持ち込んじゃいます。部屋に持ち込む原因を、親が作ってどうするの?です。親が“困ったな”と感じている子どもたちの行動を分析してみると、親自身が原因だったりすることって案外多いんですよね。それと、子どもに課した約束を無視した行動を親が取らないこと。親の充電器は寝室、ではダメです。親子の信頼関係を築くためにも、子どもと一緒に約束を守る姿勢が大切です。他には、食事中には携帯電話を操作しない、夜○○時以降はメールも電話もしない、相手も家にいるときは家の電話を使う、携帯電話の貸し借りを気軽にしない、などのルールを親子で一緒に作りましょう。また、携帯電話は、メールアドレスや電話番号、プリクラで撮った写真など、個人情報の宝庫ですから、携帯電話を置き忘れたり無くしたりしたらどうなるか?そんな話もしておいてほしいですね。あとは、「パパからこんなメールが来たよ」とか「おばあちゃんから旅行の写真が届いたよ」というように、親子で気軽にメールを見せ合える関係を築いておくといいですね。チェーン・メールが来たとき、「これって消したほうがいいんだよね?」と見せながら相談できるような環境が今の家庭には必要ではないかと思います。
--子どもに調べ物の道具としてインターネットを使わせている親へのアドバイスをいただけますか?

まずはネットがどういうものなのか?ということを子どもに教えてあげてください。それは、インターネットの技術的な仕組みでも、詳しい使い方でもありません。ネットには、様々な立場のいろいろな見解を持った大勢の人たちが、良い人も悪い人もひっくるめて誰でも自由に利用できる、表現できる場であること。だから、正しいいこと、正しくないこと、故意に書いている嘘やうっかり勘違いしていたことなど、いろいろな情報がいたるところにあるわけです。子どもたちにとって、ネットの向こう側、つまりパソコンの画面の向こう側には、世界中の凄い数の人たちがいて、ネットから情報を得るということは、実は、いろんな発信者たちそれぞれの意見を聞いていることと一緒なんだ、ということを理解させ、結局、それをどう判断し、どう処理するかは、全て“自分自身なのだ”ということが、一番大事なポイントです。
--なるほど、あくまで主体は自分だということですね。ほかに、留意すべき点はありますか?
子どもの知識欲を育てるためにネットで調べ物をするのであれば、ぜひ、パソコンを使っていただきたいです。携帯電話で調べるのは手軽で便利ですが、調べて出てきた情報に対しての重みや、知識の深さ、興味の達成感があまりないと思うんですよね。パソコンの画面にネットで調べた情報や画像がバン!と出てくれば、子どもの興味の芽はものすごく大きく広がります。パソコンの横に図鑑を置いておいて、図鑑で調べたものの動く様子をネット見てみる、というのも面白いですよね。ネットで完結してしまうのではなく、現実のものと照らし合わせたり、経験と比べたりしながら、知る楽しさ、発見する喜びを感じられるような使い方を、子どものうちから身につけていけたらいいなと思います。
【次回予告】
尾花さんのインタビュー(後編)では、IBMを辞めて独立しようと思われたきっかけや、歴史・芸術・宇宙などの正解のないものが好きという尾花さんの素顔、そして、子どもたちのIT教育にかける熱い想いについて、お話をお伺いします。
by ニフティ「想い伝え隊」大空、木皿、久保田
(ニフティの情報モラル教育サイト「インターネット体験ドリル」)
--尾花紀子さんから、みなさんへのメッセージです。
「幼いころ、ひざの上で小さな両手でマウスをやっとやっと動かしていたころが懐かしい。」成長した子どもたちを見ながら、時折そんなことを思います。成長するに従って行動も心の中も見えづらくなり、イライラや心配はしばしば。いつもそばにいることを望み、ナイショという言葉を知らないかのように素直に何でも話してくれたころみたいに簡単にはいかなくなりました。
インターネットの世界でも同じこと、最初は一つ一つ聞きながら操作していた子どもたちも、あっという間に使い方を覚えてインターネットを使いこなしています。そんな子どもたちにとって、大人が本当に教えていかなければならないのは、私たち大人が長い人生経験の中で体得してきた『善悪や危険を判断する力』。インターネットの技術的なことがわからなくても、これなら教えてあげられるような気がしませんか?!
以下の本では、信号機のように、インターネットの「止まれ」「注意」「進め」を、 「赤」:ネットに潜む危険、「黄」:注意したいこと、「青」:ネットの活用ノウハウ、という形でわかりやすくまとめました。
ママや先生たち、インターネット活用期に入っている十代の子どもたちに是非読んでいただき、便利で楽しいインターネットを安全に使いこなしていっていただきたいと思います。
尾花さんの著書
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子どもといっしょに安心インターネット「なにが危険なの?」ホームページ・メール・個人情報 |
販売価格:1,995円(税込) |
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子どもといっしょに安心インターネット「どうトラブルを避けるの?」ネット体験・コミュニケーション術 |
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尾花さん関連サイト
尾花紀子さんのオフィシャルサイトは、こちら( "尾花紀子オフィシャルサイトFrey" )よりご覧いただけます。
<警察庁セキュリティポータルサイト @police に掲載された尾花さんのコラム>
"第25回セキュリティ解説「心のセキュリティを育てる」"
<ITmedia News Bellieve in Technology(ITmedia)に掲載された尾花さんの記事>
"『子どものネット利用に大人はどう向き合うべきか』"
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